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医療機関の「BCP策定」の現状と事業を継続するための計画

法人や組織にとって、災害などの緊急事態が起こったときには、被害を最小限に抑えて事業の継続や早期復旧を図ることは、事業を継続する上で大きなポイントとなります。そのためには、BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)を策定しておくことが大切です。では、このBCPとはどのようなもので、どう策定すればよいのでしょうか。

病院のBCP策定状況の現状

厚生労働省では令和元年度に事業継続計画(BCP)策定研修事業を予算立てしています。これは、医療機関のBCPの策定が遅れていることが原因です。実際、2018年(平成30年)に行われた医療施設動態調査によると、日本全国8,372の病院のうち、わずか22%にあたる1,826の病院がBCPを策定していると回答しています。

医療機関は、巨大地震などの大規模災害が発生したときに、医療設備への被害があったり、ライフラインが途絶えたりしたときでも、被災患者や入院患者に対して継続して医療を提供し続けなければいけないため、BCPの策定は事業の損失をできる限り少なくし、早期の復旧をするために必要なものとなります。

すべての医療機関はBCPを策定することが求められ、2018年度から2023年度を計画期間としている医療計画の策定に向けて開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」においても、BCPを整備することを最優先課題としています。

この情報の参照元

BCPの概要

BCPとは、自然災害などの緊急事態において法人や組織の事業を継続するための計画のことです。このBCPを策定することで、自然災害やテロ、システム障害などの危機的な状況に対して被害を最小限に抑え、重要な業務を継続しながら早期の復旧を図る目安ができます。特に日本では、2011年の東日本大震災をきっかけにしてBCPの重要性が注目されるようになってきました。

BCPの一番の特徴は「事業の継続」が目的になっていることです。これまでの防災対策とは違い、事業を継続するための方法について具体的な行動指針を示すことが大きなポイントです。緊急時でも事業を途切れずに継続することで、早期の復旧を実現する。これがクライアントからの信用の維持につながり、株主や市場からも高評価を得ることで、企業価値の維持・向上につながると考えられています。内閣府では、2005年(平成17年)公表の「事業継続ガイドライン」において、BCP策定を強く推奨し、大企業を中心にBCPを策定しています。

その一方で、策定した内容の不備や、策定してからの時間の経過によりBCPが有効に機能しなかったケースもあり、BCPを策定する課題として挙げられています。これらのケースを検証すると「BCPが従業員全体に周知・徹底されていなかった」「適切な戦略が定まっていなかった」「復旧目標が現実に即していなかった」などにより、BCPがうまく機能しなかったと考えられています。

BCPの策定は、策定自体がゴールではありません。変化が早い現状の把握・分析を続けて、次の戦略に結びつける継続的な改善が必要になります。

BCP策定の具体的な方法

ノート
では、実際にBCPを策定するときにはどのようにすれば良いのでしょうか。BCPを初めて策定する場合を例にして紹介していきましょう。

① BCP策定の目的を設定する

まず、法人や組織が目指すものは何か、経営理念や基本方針を振り返ることで原点に立ち返って見直していきます。その中で「従業員の人命を守る」「クライアントからの信用を守る」など、経営陣が事業を行うにあたり大切にしている基本方針を再確認し、BCPを策定する目的を設定します。

② 重要な業務とリスクを洗い出す

次の段階では、法人や組織にとって最も大事な業務が何かを明らかにします。災害時に事業を継続するために「最も優先すべき事業」を、BCPでは「中核事業」と呼んでいますが、この中核事業が何なのかを確認します。この中核事業には「売り上げが最もある事業」や「納期などの遅延が及ぼす被害が大きい事業」「市場の評価や企業・団体への信頼を維持するために必須な事業」などを仮定するとよいでしょう。この中核事業の選定においては、平常時の3割程度のリソースしかない場合でも継続すべき事業が何かを検討することが大切です。

つまり、会社がそこまで切羽詰まった状態になったとしても継続すべき事業を、中核事業に位置付けるべきという考え方です。例えば、製造業ですと物資の仕入れルートを確保して納品先に遅延なく供給し続けるサプライチェーンの堅守が中核事業になると考えられます。地域密着型の小売業やサービス業であれば、食品や生活必需品など非常時にも必要な物資の販売事業が想定されます。災害時は、限られたリソースの中で業務を推進することになりますので、中核事業から優先的に選ぶ必要があります。

次の段階では、リスクの洗い出しを行い、その法人や組織にとって「起きてしまったら困ること」や「発生する可能性のあるリスク」を明確に言語化することで、具体的な対処法を導き出します。そのため、この段階では、想定されるリスクはすべて洗い出す必要があります。

想定されるリスクの例

  • 地震
  • 台風
  • 火災
  • 洪水
  • 事件・事故
  • インフルエンザ
  • 新型コロナウイルス
  • その他伝染病
  • システム障害
  • サイバー攻撃

リスクの例としては、自然災害や、伝染病、システム障害など多岐に渡ります。
これらの災害・被害を想定して、事業を継続する際にリスクになりそうなものを洗い出します。

③ リスクに優先順位をつける

想定されるすべてのリスクを洗い出したとしても、そのすべてに対処するのはなかなか難しいものです。災害時はただでさえリソースが限られますので、その限られたリソースを効果的に投入するためには、リスクに優先順位をつけていくことが必要です。そして、その優先度の高いリスクに絞ってBCPを策定します。優先順位をつけるときには、リスクの発生頻度と深刻度を判断基準にします。月に1回、年に数回、などどれくらいの頻度でそのリスクが発生する可能性があるのか、そして実際に起きた場合にはどの程度の被害が発生するのかという二軸で総合的に判断します。

④ 実現可能な具体策を決める

BCPでは誰が指揮を執り、誰がその指示を受けて実際に行動するのかといった人の動きを細かく決めておく必要があります。個々の災害に対し細かく具体的な内容を策定することで、緊急時にすぐに対応できるようにするためです。具体策は、災害発生から平常時に戻るまでのタイムスパンを3段階に分けて、「人的リソース」「施設・設備」「資金調達」「体制・指示系統」「情報」の5つの視点で具体策を決めていきます。そして一度策定したBCPは、あくまで暫定版で、情勢の変化により更新していかなければ実現性が乏しくなってしまいます。BCPの担当部署は、常々世界の情勢や日本の天候など、リスクに直結することにアンテナを張っておくことが求められます。

BCPの実践時をイメージすることが大切

BCPをより具体的かつ実践しやすいものにしていくためには、災害が発生したときにどのように事業を継続し平常な状態に戻していくかをイメージしながら作業を進めていきます。以下のように、3段階に分けて事業の平常化を目指していきます。

① 被害状況を確認する

まずは被害状況を確認しなければいけません。現時点でどのような被害が発生しているのか、どのようなリスクがあるのかを把握し理解することがポイントになります。この段階で最優先すべきことは、従業員の安否確認です。自動で安否確認の連絡を配信できるシステムを事前に構築しておけば、災害が発生してすぐに実行できます。

現在、安否確認システムはいろいろな企業が提供していますが、従業員からのリアクションがあるまで発信を続ける機能や、収集した安否状況を自動集計する機能など便利な機能がついているものがありますので、自身の法人・組織に合ったものを選択します。また、安否確認システムは従業員に避難指示を出すなど緊急時の連絡ツールとしても活用できますので、全社的な確認・行動協力に有効です。

② 代替手段で応急処置を行う

次に代替手段で、事業の継続を模索します。災害の規模が甚大で、人的・物的リソースが少なくなる場合でも、ある程度代替できる仕組みを事前に構築しておき、事業が中断することを回避することが重要になってきます。そのためには、業務を継続するために必要な資材・設備を事前に把握し、緊急時の代替手段を検討しておきます。緊急事態になったときにどのようにどのタイミングで代替手段に切り替えるのかを決めておくことで、最小限の被害で事業継続が可能になります。

また、緊急時の人的リソースを確保するためにリモートワーク環境を構築しておくことが大切です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワークが増えたとはいえ、現場作業がある業種ではなかなかテレワークが進んでいないケースもありますので、BCP策定のタイミングで検討しておきたいものです。

③ 平常操業に戻す復旧作業を行う

そして最後に平常操業への復旧作業を行います。被害を受けた部分を復旧して、平常操業に戻していくための手順も確立しておく必要があります。全面復旧するためには、施設や設備などハード部分はもちろん、サーバーやネットワーク、人的リソースなどのソフト部分の復旧も必要です。復旧を行うために、平常時の設備・システム設計・稼働状況などを正確にデータで確認し、緊急時でも情報を取り出せるようにするため、データの保護やバックアップを行えるようにしておきましょう。

現代はインターネット社会なので、事業継続においてネット環境の復旧は必須です。そのため、リモートからアクセスできるデータセンターやサーバーをあえて会社の所在地とは別の地域にすることも対策のひとつといえます。また最近はクラウドサービスでも大容量かつ信頼性の高い商品が出ていますので、通信インフラ維持については対策さえしておけばリスクは軽減できます。

このような手順でBCPを策定していきますが、最初からパーフェクトな計画を目指すと大変なことになるので、実現可能性の高いBCPにすることも大切です。最初からありとあらゆる事態を想定した計画を立てることはほぼ不可能です。というのも、災害や事故はいつどこでどのように起こるかは、わからないからです。そして、パーフェクトを目指してしまうと、BCPの完成が遅れ、その間に緊急事態がやってきてしまうと元の木阿弥になってしまいます。

そのため、必要な対策を優先し、できる範囲から少しずつ策定していくことをおすすめします。また、BCPを策定する上で忘れがちなのが、情報の確保です。多くのビジネスコミュニケーションにおいて「音声」が大きな役割を果たしているため、電話回線を維持することも重要なポイントになります。そして、従業員にBCPに基づいて判断・行動してもらうよう啓蒙することも大切です。BCPの内容を従業員に十分に理解・把握してもらい、平常時でもリスクを意識できるように講習会を行うなど社内周知も重要になってきます。

上述の通り、BCPの策定に終わりはありません。常に更新が必要ですし、防災備蓄品の点検や避難訓練を定期的に行うことで変更することも出てくるでしょう。そのため、BCPの内容を定期的に見直し改善していくことが、事業の継続にとって大切といえます。BCPは、緊急事態が発生したときの法人・組織のビジネスを守る「砦」ともいえるものです。深刻なリスクが発生したとしても冷静・迅速に対応できるように、BCP策定を行いましょう。

BCMと防災はBCPとどう違う?

BCP対策は防災対策と似ていますが、基本的には違うものと考えてよいでしょう。BCPは自然災害を含めすべての非常時が該当します。例えば、停電や原子力事故、テロ、食中毒のほか、現在の新型コロナウイルスの感染拡大なども含めて、さまざまな脅威への対策を行うものです。一方、防災対策は、地震対策や洪水対策など自然災害のみが対象となっています。そして、BCPは事業を継続することが最大の目的なので、取引先の企業と共同で対策を講じることもあります。一方、防災対策は自然災害から資産を守るため、自社のみを対象としています。

また似たような言葉でBCM(事業継続マネジメント:Business Continuity Management)という言葉があります。これは、法人や組織を脅かす潜在的な脅威を把握して、ステークホルダーの利益やブランド、価値創造活動を守るために、復旧力・対応力を構築するためのマネジメントプロセスのことで、BCPをいかに浸透させ戦略的に活用するかの管理のことを意味しています。

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